*2020年*
★★五つ星の時のみ
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クスノキの番人
東野圭吾
☆☆☆
理不尽な理由で会社をクビになった玲斗は、未払いの給料や退職金の代わりに金目のものを盗もうと会社に忍び込み逮捕される。「刑務所行きか?」そう覚悟した彼の前に一人の女性が現れた。彼女は、ある条件を受け入れるのなら玲斗を助けると提案するが・・・。
彼女の願いは、玲斗がクスノキの番人になることだった。理由もわからず引き受ける玲斗。「なぜ、いろいろな人がクスノキを訪れるのか?」その謎が解けるにつれ、玲斗の心は次第に変化していった。
人の人への思い。一緒に暮らしていても気づかないこともある。伝えきれないこともある。自分の思いを言葉にするのは難しい。だが、もし思いを忠実に伝える方法があったなら・・・。
現実的ではない不思議な話だったが、静かな感動を味わえる作品だった。
アルルカンと道化師
池井戸潤
☆☆☆☆
東京中央銀行大阪西支店の融資課長の半沢直樹のもとに、企業買収の話が持ち込まれる。ターゲットは、百年近く続く出版社の仙波工藝社だった。強引とも思えるやり方で買収を進めようとする大阪営業本部。やがて半沢は、この買収工作の真の狙いを知ることになるのだが・・・。
買収の話に全く乗り気でない仙波工藝社の社長・仙波友之。畑違いの業者からの強引な買収話に半沢は疑問を抱く。半沢を陥れようと、巧妙なわなを仕掛ける者たち・・・。半沢が探し当てた買収の真の狙いは実に驚くべきものだった・・・。
買収話とアルルカン、このふたつをどう解決していくのか?先を知りたくて一気に読んでしまった。人と人との温かな触れ合い、そして信頼関係の大切を感じた。面白さだけではなく、切なさも少し感じる、読み応えのある作品だった。
不死鳥少年
石田衣良
☆☆☆☆
アメリカ人の父と日本人の母を持つ少年タケシ。
父と父親似の姉はアメリカに、見た目が日本人のタケシと母は日本へ。戦争は家族を引き裂いた。そして、1945年3月10日、東京大空襲が!タケシの、大切な家族を守りたいと思う気持ちがある奇跡を起こした・・・。
茶色い目以外は髪が黒いので日本人のようだった。だが、その茶色い目のために、タケシはいじめに遭う。「クラスメイトと何とか心を通わせたい。」そのタケシの願いがようやく叶ったかに見えた時、残酷な運命が待ち受けていた。東京大空襲だ。雨のように降り注ぐ焼夷弾のため、タケシの住む本所地区は、住民の半数が亡くなり、九割を超える家屋が焼失した。いつ死んでもおかしくない状況の中、タケシの家族は誰一人欠けることなく難を逃れた。それは、家族を救いたいと思うタケシの強い願いが起こした奇跡だった。「よかった!」読んでいてそう思ったのだが・・・。読後は切なさが残った。
「東京大空襲を記録として残したい。」そういう作者の思いがしっかりと伝わってくる。平和の大切さを改めて感じた。読み応えがあり、心に強く残る作品だった。
宮部みゆきの江戸怪談散歩
宮部みゆき編
☆☆☆
宮部みゆきさんの描く怪談話の舞台はいったいどんな所なのだろう?
その疑問に答えるようにさまざまな場所が紹介されている。ほかに、北村薫氏との対談、宮部さんの作品、宮部さんおすすめの作品などを収録。
三島屋変調百物語の舞台を歩く、宮部怪談の舞台を歩く、本所深川七不思議を歩く、北村薫氏との対談、宮部作品2編、宮部さんおすすめの作品2編が収録されている。宮部ファンにとってはうれしい1冊だ。あちこち場所が写真入りで紹介されているが、写真がカラーではなく見づらいのが残念だった。北村氏との対談も興味深かった。おふたりともいろいろなことに精通している。知識量がすごい!
収録されている宮部作品は以前読んではいるが、何度読んでも面白い。特に「曼殊沙華」はとてもいい作品だと思う。三島屋変調百物語の最初の作品でおちかが聞き役を始めるきっかけになる話だが、読む者をどんどん物語の中に引き込んでいく。ほれぼれするような巧みなストリー展開だ。
サクサク読める、楽しい一冊だった。
ジェリーフィッシュは凍らない
市川憂人
☆☆☆
そのふわふわと空に浮かぶ姿が海月(くらげ)に似ていることから、「ジェリーフイッシュ」と呼ばれる飛行船。その新型機のテスト飛行のため、六人のメンバーが乗り込んだ。だが、思わぬアクシデントで山の中腹に不時着する。やがて飛行船は炎上。そして、驚愕の事実が!六人の乗組員全員が殺害されていた・・・。第26回鮎川哲也賞受賞作品。
予想外のトラブルで山の中腹に不時着することになった飛行船だったが、その後炎上。遺体となって発見された乗組員全員が殺害されていた。雪山の中腹。外部から人が飛行船へ侵入することも、内部の人間が脱出することも不可能・・・言わば、密室状態だった。アガサ・クリスティーの作品「そして誰もいなくなった」を彷彿させる。
事件解決のため刑事のマリアとその部下・九条漣が現場に向かう。過去の出来事と現在の出来事が交錯しながら、次第に事件の真実に向かうのだが・・・。
うーん。マリアと九条のキャラクターが魅力的とは言えなかった。特にマリアに対しては、好感が持てない。こんな極端な個性を持たさなくてもよかったのではないかと思う。
また、真実に意外性はあったが、なんだかすっきりしない。作者に見事にだまされた!という爽快感はなく、どこか不自然でもやもやしたものが残る。そこのところが残念だった。
逆ソクラテス
伊坂幸太郎
☆☆☆☆
一度ダメな生徒だと思ったら、その認識を変えない教師。決めつけられた生徒はもうその認識から逃れることはできないのか?決めつけられた生徒・草壁を救おうと、クラスメートが立ち上がる!その作戦は?表題作「逆ソクラテス」を含む5編を収録。
「逆ソクラテス」
秘められた可能性を持っているのに一方向からしか見ず、「この生徒はできない。」と決めつける教師。その教師の先入観を何とか崩そうと奮闘するクラスメートたち。生き生きとした描写で、読み手を惹きつける。誰がどんな関わり方をするかで、子供たちの未来は変わってしまう。もっと柔軟な目で子供たちを見てほしい。そう願う。「僕はそうは思わない。」この言葉がとても印象的で、強く心に残った。
「非オプティマス」では、人を見かけで判断することはいけないということを、相手によって態度を変えたりわざと人に迷惑をかけることがどんなに愚かな行為であるかということを、あらためて考えさせてくれた。「本当にその通り!」
どの話もよかった。作者の思いがしっかりと詰まっていて、読みごたえがあった。さわやかな感動が味わえる作品だと思う
龍神の雨
道尾秀介
☆☆☆
添木田蓮と楓兄妹は、母が事故死した後継父と暮らしていた。一方、溝田辰也と圭介兄弟は、母に続いて父を亡くし、継母と暮らしていた。
蓮は、継父に楓がひどい目に遭わされたことに怒り、継父の殺害計画を立てる。一方辰也は、継母を困らせたくて、蓮の働いている店で万引きをする。この二組のきょうだいは、ひとつの事件をきっかけに微妙に交錯することになるのだが・・・。
ある出来事をきっかけに、連と楓、辰也と圭介、二組のきょうだいの思惑が絡み合う。共通しているのは、実の親がもういないこと。未成年の彼らには、自分たちの境遇をどうにもできないこと。そんな中で起こったひとりの人間の死。その死をめぐる4人の心の葛藤、先の見えない状況、緊迫感のある展開が、読み手を引きつける。巧妙に張り巡らされた伏線は、後半で生きてくる。そして、意外な真実が次々と明らかになるのだが・・・。
作者の都合のいい展開で現実味に欠ける部分があったが、それを差し引いても面白さを感じる。ラストも無難にまとめられていると思う。
シーソーモンスター
伊坂幸太郎
☆☆☆☆
一人暮らしの母を心配した北山直人は、妻に相談し、母と同居することにした。何とかうまくやっていけるだろうと思っていたが、嫁姑間に不穏な空気が流れる。実は、単なる嫁姑問題だと思われていた裏側には、姑のセツと嫁の宮子の秘密が隠されていた・・・。表題作「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」2編を収録。
「シーソーモンスター」
セツと宮子の驚くべき秘密。それが、直人の危機を前にして次第に明らかになっていく。製薬会社に勤めている直人は、出入りしている病院の不正に気付く。証拠をつかもうとする直人だが、魔の手が伸びる。次々に起こる危機から何とか直人を守ろうとする宮子だが、一人では限界がある。もうだめかと思ったその時・・・。最後は爽快感が味わえる。何も知らないのは直人だけというのも、面白い。
「スピンモンスター」
「シーソーモンスター」は昭和を舞台にした作品だったが、こちらは2050年の話だ。水戸直正が新幹線の中で手紙を託される。その手紙を届ければそれで終わりのはずだったが、次第に事件に巻き込まれていく。事件に巻き込まれていく過程が、まさに伊坂流だ。スピーディーな展開から目が離せなかった。「シーソーモンスター」との微妙なつながりも面白い。それにしても、記憶というのは実にあいまいなものだとつくづく思う。
今回も、伊坂ワールドを堪能した。楽しめる作品だと思う。
パリのすてきなおじさん
金井真紀
☆☆☆☆
「パリの街を歩き回り、面白い話をしてくれそうなおじさんを見つけて話を聞こう!」
パリ在住40年のジャーナリスト・広岡裕児さんの案内で、パリで見つけたおじさんたちの話を集めた作品。
パリには実にさまざまな人たちが住んでいる。いろいろな国から来ていろいろな事情でパリに住んでいる人がたくさんいる。ここに登場するおじさんたちの経歴も十人十色でとても興味深い。登場する人たちに共通するのは、しっかりとした自分の考えをもって、しっかりと大地に足をつけて生きているということだ。人生、思うようにいかないこともたくさんある。そんなときはどう考えどう行動するべきか?この作品の中に、たくさんのヒントがある。そして、生きるということはやっぱり素晴らしいことなのだと思わせてくれる。金井真紀さんが描くおじさんたちのイラストも見ていて楽しい。
ずっと手元に置いて時々読み返したくなるような作品だ。
黒武御神火御殿
宮部みゆき
☆☆☆☆
江戸の神田三島町にある袋物屋の三島屋の次男・富次郎は、嫁いだおちかの跡を継ぎ、変わり百物語の聞き手になった。そんな富次郎のもとに印半天が持ち込まれた。変わった印を持つその半天には、恐ろしい秘密が隠されていた・・・。表題作を含む4編を収録。三島屋変調百物語シリーズ6。
何かに取り憑かれる怖さ、人の恨みの怖さと、怖さの種類はそれぞれ違うが、どの話も本当に怖い。特に人の恨みは怖い。なぜこんなにも相手を恨まなければならないのかと、その理不尽さに怒りさえ覚える。特に「姑の墓」は怖い。恨んで祟る。とても後味の悪い話だった。
表題作の「黒武御神火御殿」も人の恨みにまつわる話だ。その恨みは尋常ではなく、凄まじい。自分が報われなかったから人を恨む。恨む側にも理由はあるかもしれないが、ここまでするのか!という驚きもあった。恨みを向けられた人たちがいったいどうなるのか?かなり長い話だったが、最後まで一気に読んでしまった。
日々の暮らしの中、誰を恨むこともなく、誰からも恨まれることなく、穏やかに過ごしたいものだとつくづく思う。